会社を辞めることを上司に伝えた日。
いつもより早く退社して、通いなれた道を歩く。
一時間違うだけで人通りは多く賑やかだ。
呼び込みの店員や仕事帰りのサラリーマン。
街が一日を終えるまでにはまだ時間がある。
駅まで歩いて10分。
改札を抜けるとちょうど電車が入ってきた。

阪急そばの前を通り過ぎる。外には天たま丼セットのポスター。
うまそうにうどんを食べる人たち。
灯りがついた店内。閉店前の風景を見たのはいつだっけ。
それを横目に、先に並んでいた電車待ちの乗客の後につく。
そういえば、いつか行こうと思ってたけど
閉店時間に間に合うことなんてほとんどなかった。
あってもそんな気分にはなれなかった。早く家に帰りたかったから。
緊張、疲労、不安。そんな日々だった。

駅のアナウンスが構内に響く。
プシューという音とともに扉が開く。
列に続いて一歩踏み出して思う。

いつか行こうは今日かもしれない。

閉店まであと30分。
列から離れて店に入る。
混雑してて空いている席はぽつぽつ。
食券を買ってしばらく待つ。
お待たせしました、という明るい声と湯気が上がる関西風のうどん。
きれいな卵とじの上には白ネギ。

そうだ、俺は追われていたんだ。自分に、会社に、将来に。
選んだ道はあっていた?努力はどうした?負けたんでしょ?
ミスをしたこと。意見が言えなかったこと。その場で決断できなかったこと。
つゆを一口すする。涙が出た。
それでも飲み込む。ちゃんと噛んで。
生きていることを確かめるように。食べられることを喜ぶように。
なんだ、まだ終わってなんかいないじゃないか。
だってこんなにおいしいんだから。
つらいときはここにこよう。そして、また歩き出せばいい。